秘密の告白~おにいちゃん、あのね~
「おにいちゃん、あのねっ」

 この日も、遥姫は僕の顔を見ると同時に手を引っ張り部屋に連れて行く。

「今日はがんばったんだよ、隣の席の子がね……」

 お互い進級したばかりだけれども、遥姫が学校のことを話すなんて珍しい。
宿題を見ていたついでに学校の話題を聞くことはあっても、自ら話すことはなかった。

これも遥姫なりの成長なのかもしれない。

 僕が、いなくとも。

「仲良くなれた?」

 聞き返すと一瞬驚いた後少し照れたように「まだわからない」と俯いた。

油断をすると抱きしめてしまうから、ぐっと手に力を入れていつも通り椅子に腰かけ、机に並べられたプリントに目を走らせる。

いつも通りに確認して、間違えているところはやり直して、できたら笑って……そうして時間を過ごしたあと、いつもの僕が帰宅を気にし始める時間。

「遥姫、大事な話があるんだけど……」

 僕が口にした瞬間、ピクリと遥姫の肩が震え恐る恐る見上げてくる。

さっきまで楽しそうに、いや、少し無理してそう見せていたのかもしれない健気な彼女に、苦しいほど愛おしくてたまらない。

「僕は今月までで、ここには来れなくなるんだ」

 本当は夏ごろまで余裕はあったし、間隔を減らせばもう少し続けられる。

けれども、僕のこの前途多難な気持ちを抱えたまま彼女と向き合うには、あまりにも辛すぎた。

「学校も忙しくなってくるし、僕も働く準備をしなくちゃいけなくてさ」

 もっともらしい言葉を並べるけども、本音を言うわけにはいかなかった。

頭をなでるとクセの強い髪が手に絡まるように優しく揺れる。

「遥姫のことは、園の時からずっと覚えてたよ。僕といろんな約束や内緒話したよね」

 走馬灯のように思い出が駆け巡り、目の前ですでにポロポロと涙を流す遥姫に思わずつられそうになる。

自分のことを話すのが苦手なこと、少しさみしがり屋なところ、笑顔がとってもかわいいこと。

僕はきっと忘れない。

「だから……」

「おにいちゃん、やだ」

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