秘密の告白~おにいちゃん、あのね~
 それから、どうやって時が過ぎたのかはよく覚えてなかったけれど、その後は毎年なんだかんだでとくに名目打たず四人で顔を合わせて食事する日があったから、そういう日だったのだと思う。

再び、あの邸宅を訪れることになるとは。

 ごくりとつばを飲み込んで、母と二人門の前に並んで立つと自動で開く。

広い庭を抜けてたどり着くと、初めて会った日のようにゆっくり開かれた扉からは嬉しそうな義之さんが顔を出す。

「どうぞ」

 促されて足を踏み入れると、すぐ玄関ホールには彼女がいた。

 なんて言っていいかわからない。

僕の気持ちも中途半端で、今までなら母の気持ちが最優先だった。
だから高校受験もしたし、自分のためでもあったけど大学へ進学してもいいかとも思えた。

母の顔を立てるため、なんて始めた家庭教師。
そこでまさかの再会と見つけてしまった小さなキモチ。


 いつから君と繋がっていたんだろうか。
答えもない考えが漠然とひろがるけれど、言えることは一つ。

僕の指から君へと繋がるこの糸は、必ずしも赤い色をしたわけではなかった。

 ただ、それだけの話なのだ。


「おにいちゃん、あのね……」

 言いよどんでいた僕に、彼女が近づいてきてつぶやく。
それは何度となく聞いたお決まりのフレーズのようで、僕と彼女の約束のような言葉だった。

だから、いつもの通りひざを折ってしゃがみ、顔を覗き込む。

「うん、なあに?」

 目の周りはほんのり赤くて、すこし泣いた後なのかもしれない。
この実らない恋を、彼女もどうにか昇華しようと必死なのだろう。

「よろしくね」

 目を細めて笑う遥姫。
傍目にはとても嬉しそうな表情にとれるけど、僕には無理して作った笑顔に見えて仕方がなかった。

そして、きっと、僕もおんなじ顔をしていたんだと思う。


 そんな彼女に、いつか幸せが降り注ぐ毎日が訪れますように。


「こちらこそ。どうぞよろしく」

 それまでさようなら、僕の小さな恋。

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