秘密の告白~おにいちゃん、あのね~
 当時はその道を選んだ自分を後悔したし、純粋な気持ちを貫きたいという矛盾や感情にも悩まされたけど。

「おにいちゃん」

 ただ一言、遥姫に呼ばれるたびに、僕は兄になったのだと気づかされた。

 家族愛と呼ぶにはいささか色づき過ぎ、恋と呼ぶには穏やか過ぎるこの想いは、不思議と僕を次第に納得させていく。


 僕はというと、大学卒業後は義之さんの会社で働いている。いわゆるコネ入社というやつだ。



 母と義之さんが結婚を決め、その場で義之さんに誘われた。

「僕の会社で働かないか?」

 それは社長としてのものなのか、果たして父としてなのか。
僕には判断できなかったけれど、しばらく悩んだ後、それを受けることにした。

そんな入社手続きを進めていたときに、義之さんと二人で話した。

「この道を選ぶということは、想像以上に辛いことも厳しいこともあるだろう。それでも、僕は君は頑張れると思うし、そうでなくては困る」

 そしてニコリと笑い僕の頭を撫でた。

「君は……匠は、僕の大切な息子だよ」

 気づいた時にはすでにいなかったけれど、これが父というものなのか。

じんわりと胸が温かくなったのを、今でも覚えている。

そんなことがあり、あんなに内定が取れなかったが、周囲にはこれが運命だったんじゃないか、とさえ言われた。

僕の取り巻く環境の急変に驚かれ続けたけれど、正直、僕が一番戸惑っていると思う。


「おかあさーん、お兄ちゃんと写真撮ってー!」

 靴を履いて玄関を出た僕の目の前で、遥姫がくるりと向き直り家に向かって叫びだした。

遥姫もすっかり母に懐き、抵抗なく母と呼ぶ。

「はいはい。
もう、はるちゃんは今日から高校生なんだから、これからはもう少しお転婆が治るといいわね」

 と、デジカメをもって家から出てきた母の優しい小言は、当の本人は聞こえないふりのせいで、単なる独り言に変わってしまう。


「じゃあ撮るわね」

 母の構えるカメラに向かって笑う。

「お兄ちゃん、ちゃんと笑ってね!」
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