心理戦の100万円アプリ


「もー限界! 腹減ったよー! 彩子何か作ってー」

「まあ、時間かかるみたいだし簡単なの作るわ」

 モヒカンは外のちらつく雪を眺めて動こうとしない。
 シチューの材料の残りがあったのだろう、会話のない一階でいい匂いが立ち込める。

 ケンジはボケる事はしなかったが、4杯お代わりをしてケータイをいじり出した。
 モヒカンは一口も食べようともしない。
 皿洗いを彩子と済まして、無言のまま席につく。

 口を開けば不安しか出てこない、かといってこの場から離れるのも落ち着かない。
 数時間経った頃か、階段を降りてくる足音が聞こえてきた、老人紳士の丸山だ。

「出来ました、まず彩子さん私についてきて下さい」

 黙って席を立つと老人紳士の後に続いて、ゴスロリがいるだろう部屋に入って行く。
 一体何が起こるんだ、何故彩子だけなんだ。

 3分もしない内に彩子が老人紳士と降りてきたのだが、彩子にあり得ない異変が起きていた。
 手で口を覆い、ポロポロと涙を流して、席に着くとうずくまってしまった。

「おい! 大丈夫か彩子! 何があった!?」

 泣きじゃくる彩子は喋れる様子でもない。……スラッシャー!?
 あの短時間で? 彩子がこんなになる程?

「次はケンジさんですよ」

 彩子を気にしながらケンジも二階へと上がっていく。

 また3分もしない内にケンジが帰ってくる、その顔からは完全に表情をなくした人形の様に、席に着いても目が上の空。
 次々と、なんでだ!?
 何が上で起こっている?

「モヒカンさんどうぞ二階に」

 まさかモヒカンまでやられてしまうのか? あのゴスロリは何をやっている?
 5分程してモヒカンも老人紳士と階段を降りてくる。

 だが表情に変わりはない、しかし僕に向かってモヒカンとは思えない言葉を聞かされる。

「渡辺よぉ、俺もう賞金とかどうでもいいわ。もっと早く村田奈緒に会いたかった」

 人が変わってしまっている……。
 ヒーラーにしてもスラッシャーにしてもこの短時間でここまでなるのはあり得ない。

 まさか、これがパーフェクトヒーラーかパーフェクトスラッシャーなのか?

「最後に渡辺さんどうぞお二階へ」

 心臓が破裂しそうだ、何が待っているんだ。想像が少しもつかない恐怖。
 恐る恐るドアをノックする。

「どうぞ、1人で入ってきて下さい」

 部屋に入ると絵の具が散らかった真ん中に椅子に座るゴスロリ女。
 その後ろには白い風呂敷の様な物がかけられている。

「私は言葉が苦手です、頭も悪いんです。けど今までの予選などの情報と、会った印象雰囲気を見て渡辺さんを一生懸命描きました。急いで書いたので自信はないのですが、これが私のヒーラーです」

 ゴスロリ女は立ち上がると白い布をとった。
 瞬間目が大きく開き、衝撃は脳を通り越しその場にしゃがみ込んでしまう。

 青い暗い深海に白い球体が溶けていく、1枚の絵。
 人に全てを理解される事など不可能だ、だがそれに近づく事はできる。
 自分を知ってもらう事以上の幸せはないかもしれない。
 鼻が熱くなり、ポロポロと涙が流れて行く。





 この絵は……僕だ。
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