彼女は心に愛を飼っているらしい


まっすぐで透明な中に僕を映す。汚れてしまわないだろうか、そんな変な疑問は彼女がすぐに吹き飛ばした。


「もうさ、捨てちゃいなよ。どうせなんて何もかも否定する言葉なんか」


どうせ、出来ないからやる意味がない。
どうせ伝わらないから言う必要もない。


どうせという言葉は口に出せば出すほど、自分がその言葉にふさわしい人間になっていく。


諦めて、逃げ出して、自分を否定するのが嫌だから、他人のせいにして、どうせこうだと決めつける。


そんな言い訳だらけの時を過ごすたび、気づいていく。自分の心の中に現れる虚しさと寂しさに。


“どうせ”


ひどく簡単な言葉であるくせに恐ろしいな、と思う。


「だからキミも優しさを拾って心に飼ってあげるといいよ」


「優しさなんて落ちてないけど」


やっと出せた声はなんだかかすれていて、情けないものだった。


「落ちてるよ。例えば、私にとっては今日キミが来てくれたことも優しさなんだよ」

「あれはキミが無理やり……」


「うん、それでもね。キミは私がしたかったことを一緒にしてくれた。キミからもらった優しさを心にため込んで大きくするの」


分からないな。


彼女の言ってることは理解出来ないのに、言葉は鋭い矢のように突き刺さる。


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