幾久しく、君を想って。
「私なら大丈夫ですから。本当に一人で帰れます」


なんだかんだ言っても地元の町だ。
何処か暗くて危険かくらいは知っている。


「貴女を一人で帰したら男の沽券に関わりますよ。高もっさんに託されたんだから責任は取ります」


沽券とか責任とか、古臭い言葉を言う人だな…と思いつつ目を見ると、酔ってもない眼差しは真っ直ぐと私の方に向けられていて。


「襲ったりしませんから信用して下さい」


余りにも真面目そうに言いだして、思わずくっ…と笑いを噛みそうになった。



「じゃあすみませんけどお願いします。自宅は駅の向こう側です」


線路を挟んだ住宅街の一角だと教えると…


「それじゃあガード下を潜るんじゃないですか!あの辺は最近、引っ手繰りとか痴漢とかの名所になってるんですよ!」


送ると言って良かった…と呟き、行きましょう…と足を出し始める。


「そうだったんですか。知らなかった」


歩調を合わせながら歩きだし、地元も少しづつ変わってるんだなぁ…と声を漏らすと、何年前と比べてるのかと聞かれ。



「うーん、かれこれ十年近くになるかなぁ」


上目遣いに思い出して答えると、「大分遠い過去ですよ」と窘められた。


「本当に、そうですよね」


男性にそんなふうに言われたのも十年近くぶりだとは言えず、家までの距離をほぼ名前しか知らない彼に送られることになった。



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