幾久しく、君を想って。
どうやら「宮っち」は、あの場だけの愛称に留まっているらしい。
ホッとして微笑み返し、おはようございます…と挨拶をした。


「この間の夜もまっちゃんに送ってもらったの?」


酔って憶えていないらしく、ニヤニヤしながら問われた。


「はい、そうですけど…」


ドキッとしながらも平然とした態度を貫く。
何かあった?と聞かれたらどうしようかと、内心ビクつきながら思った。


「ふーん。そう」


高本さんは満足そうに唸り、更衣室へと向かう。
その背中を見つめながら、狼狽えているのは自分だけだと呆れた。

彼とは親しい友達だと思うなら、その態度を保持すればいいだけだ。
それなのに、どうしてキスを受け入れたりしたのか。


軽はずみな行動だった…と振り返り、今後はあんなことをしない…と誓う。



一抹の寂しさを抱え込んだまま仕事を終えて帰った。
明日は松永さんと会うんだ…と思うと、少しだけ気が滅入ってくる。

彼にはブラウニーをあげるべきなのかどうか。
友達なら、それで十分な筈なのにーーー


夕飯の後、余った材料を見て何気なくマフィンを焼いた。
チョコレートを刻んで混ぜ込んだら、マーブル状になって美味しそうだ。


出来上がったものをオーブンから取り出し、つい喜んでくれるかな…と思う。
ニヤニヤしている自分に気づき、何を浮かれているんだ…と再び呆れた。


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