幾久しく、君を想って。
「拓海君は父親を知らないから、どんな人間かを想像してきただろうと思うんだよ。
理想の父親像も持っていると思うし、それに俺が当てはまるとも思えない。だから、いろいろと複雑だろうな…って気がする」


会って欲しいと言った時、彼が言っていた複雑というのはその事だったのか。


昨夜はそれを思うと不安でなかなか眠れなかったんだ…と言いだし、それで目の下にクマが出来たと教えられた。



「ごめんなさい。何も知らずにいて…」


母親だけをしてきた所為で、大事な人の気持ちを汲むことを忘れていた。

松永さんは私に謝らなくてもいい…と言い、教えるのは少し先にしない?と提案してきた。


「俺という男にもっと慣れてからの方がいいと思うんだ。その方が記憶としても擦り込み易いと思う」


焦っても仕方ないからゆっくり進んでいこうよ…と優しい声で話された。

崩れ易い関係ではなくて、しっかりと土台を築き上げていかないと駄目だと知った。




「ええ……お願いします」



改めて話して良かったと感じた。
拓海と彼と三人で、いつの日かまた、歩き出せたらいいと思う。



「真梨さん、あのね」


「うん、何?」


幸せな気持ちのままで彼の声に耳を傾けた。

「キスしよう」という彼に従い、液晶画面に唇を乗せた。


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