幾久しく、君を想って。
謝る様子がおかしいと思ったのだろうか。
立ち止まってから見下ろし、迷ったように肩を抱いた。


「人が多いので支えておきます」


理のように囁かれ、申し訳なさと嫌な気分とが入り混じる。

一歩一歩確かめるように足を運びだし、その足元がフラついていないかどうかを確認される。



「大丈夫ですか?歩けますか?」


問いかける人に頷く。

本当なら今は、優しくなんてされずに放っておいて欲しい。
突っ張った気分でいるから、それに浸らせておいて欲しい。

変に気持ちを緩めたりしたら、何を話しだすか知れないーーー。


無言のまま俯き、足先に神経を注ぐ。
肩に置かれた掌の感触は、敢えて意識しないように努めた。


温もりも何も感じない。
ただ空気に包まれているんだと、思うようにした。


シートの並ぶ階段を下りきり、出入り口へ続くスロープまで辿り着いた。

松永さんはやっとしっかり歩き出せるようになった私に安心して、するりと肩に置いた手を除ける。

急に軽くなった肩の軽さに物足りなさを覚えながらも、少しだけ胸がホッとする。


出入り口の手前でゴミ袋を広げるスタッフの袋の中にコーラの入っていた空きコップを落とし入れ、解放された空気と一緒に外へ出た。


劇場の並ぶ通路の両脇には、まだ泣いている人が何人か立っている。
歩きながら話し合い、涙に暮れている人達も見かける。


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