君は、秘密のキスから


その言葉を吐いた時、先生がやっとわたしを見た気がした。瞳の奥に隠れていた人物が消えて、私を、捉えてくれたような気がした。




「キスが先生とのサヨナラの合図なら、私は絶対に、先生とキスなんてしない」




たぶん、私の気持ちを見据えている先生だから。これくらい平気。

キスをしたら終わり。一回限り。その後は信じられないくらい冷たい。

そんな噂話を聞くのは日常茶飯事だった。ハンブンくらいウソだと思っていたけど、きっと本当の話。先生はナオの代わりを探していただけ。キスしたらナオ以外の女の子なんて用済みなんだ。


……でも、そんなの、嫌だ。


恋とか付き合うとかそんなの知らない。だけど私は先生に憧れているし、ナオって呼ばれた女のひとを心の底から憎いと思った。

……だって、先生にこんな顔をさせてるのは、紛れもなく"ナオ"ってひとなのに。

先生はそんなナオを、忘れられないなんて。




「………ねえ先生、その恋にサヨナラしようよ」




"私と"って言う言葉は出なかった。図々しいにも程がある。だけどね先生、先生が悪いんだよ。

こんな面倒な女子高生に同情を湧かせて、先生バカだね。でもね、どうしようもないよ。だって私、先生のその泣きそうな顔を、守ってあげたいって思っちゃったんだよ。
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