オルレアンの空に花束を
Episode 0




押し寄せる人の波を掻き分けて、必死にその傍へと駆け寄る。

例え涙で前が見えなくても、無我夢中で手を伸ばす。


そして、昔から変わらない私にとって唯一の名前を叫び続けた。


声が枯れてもいい。

例え群衆に飲み込まれそうになっても、それでも届いてほしくて、ただ声を張り上げて呼び続けた。


辿り着いた先には天へと向かって燃えゆく炎。


私にはそれが地獄の業火のように見えて。


あぁ。彼女が一体何をしたというの。

悪いのは、すべて私だったのに。


そう思いながら、私は必死に手を伸ばす。


そんな燃え猛る赤の中で、貴女は静かに微笑んだ。

まるで聖女のように。


そしてその瞳に確かに私を映して動いた唇。



「 」



優しい貴女は最後の最後までその微笑みを崩すことのないまま瞳の幕を下ろした。


灰が、風に散る。誘われるように、遠く遠くさらわれていく。

空へと、吸い込まれていく。


その時私は、ようやく気付いたのだ。

私は、貴女を



「愛していたの」




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