溺愛妖狐ひろいました
巴は、山奥の小さな村の側に祀られた土地神様で。
その村の繁栄を願って建てられた祠で生まれたらしい。
その頃は、村の人々は巴に様々な願いを託し、たくさんのお参りが訪れていた。
「巴様、今日もたくさんの村人が参ってくれましたね」
「ええ。本当に、嬉しいことだわ」
神様の力は、人々の信仰により左右される。
いわば、生きるも死ぬも人次第ともいえる儚い存在ではあった。
でも、その頃のおれはそんなこと知らなかったんだ。
ただ巴がそこにいて、側にいられて幸せで。
それが永遠に続くものだと思っていた。
“永遠”なんてものは存在しないのだと気付いた時には、もう取り返しがつかないところまで来ていた。
「巴様!」
「巴!?」
長い年月が過ぎると、時代が移ろい世界は様々な変貌を遂げていった。
栄えていたその村にも、逃れられない過疎という問題が起こり始めていた。
祠を訪れる人が減り、土地紙である巴の事を無情にも忘れて行く人間たち。