ビルの恋
ここはB.C. square TOKYO。

5年前に竣工した高層ビルで、アッパーフロアは外資系の有力企業が占めており、社員の平均年収は4000万円といわれている。
新入社員で1000万円超の企業も複数あるようだ。

私は41階にある、世界三大コンサルの一つ、S&Wで働いている。

といっても私の仕事はコンサルではなく、単なる派遣社員だ。

「外国人エグゼクティブ」の「秘書」の「アシスタント」が私の身分。

「外国人エグゼクティブ」は上司のサイモン。

流暢な日本語を操る、辣腕コンサルタント。
スキーが趣味で、夏でもトレーニングを欠かさないエネルギッシュな50歳だ。

「秘書」は斎藤さんといい、40代半ばの美人だ。

上品なショートカットに、糊のきいたシャツ、タイトスカート、それにピンヒールがトレードマーク。
プライベートは全く分からない。

そして「私」。
新卒で入った会社が3年前に倒産し、一時凌ぎのつもりの派遣生活がもう3年目。

将来のことを考えると不安になる。

仕事かプライベート、せめて片方だけでも安定させたい。

今29歳。

人並みの結婚願望はあるが、全く予定はなし。


視線を外に向ける。

エレベーターのガラスの壁越しに、東京の街並みが広がっている。

その向こうには東京湾。

2月特有の、冷たく澄んだ青空が広がっている。

エレベーターはノンストップで1階に降下していく。
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