ビルの恋
結局、11時30分には間に合わなかった。

サイモンが、会議室を変えろと、直前になってゴネたのが原因だ。

彼は辣腕だが、その分、要求が多い。

縁起を担ぐ癖もある。

特定の会議室にこだわるのはそのせいだ。

部下たちはいつも振り回されているが、
圧倒的に仕事ができ、必要な時には部下のサポートを惜しまないので、結局は信頼されている。

斎藤さんのヘルプにより、何とか他のチームの会議室を譲ってもらい、オフィスを出たのは11時35分だった。

洋食・吉野に着くと、急いで店内を見渡す。

「夏堀さん、こっち」

声がした方のテーブルを見ると、伊坂君が座っていた。

今日はシャツにネクタイだ。

伊坂君は確かにイケメンだが、決して派手なタイプではない。
でも、弁護士ならではの理知的な雰囲気と端正な顔立ち、年齢の割に自信に満ちて落ち着いた物腰が相まって、独特の雰囲気がある。
こうしてランチ時のレストランに一人でいると、とても目立つ。

「ごめん、遅くなって」

言いながら、急いで席に向かう。

なんとなく周囲の視線を感じる。

ふと見ると、近くのテーブルの女性グループが、こちらをちらちら見ている。

どの女性も、メイクとファッションに力を入れているのがわかる。

これが噂の、イケメンエリートとの出会いを期待してランチに来る、付近のOLさんたちか。
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