ビルの恋
「お連れ様、お見えになりましたよ」

バーテンダーが入口の方を見る。
伊坂君だ。
今日はスーツだ。

二人でカウンターに並んで座る。
井坂君は、バンブーをオーダーした。

「夏堀さん、かっこいいね、今日」

「かっこいい?」

「うん。黒いドレスに、綺麗なカクテル持って」

私が手にしているのは、カイピリーニャだ。
タンブラーに氷とライムが沢山入っている。

「ドレスは友達が選んでくれたの」

「友達?」

「そう。紀美子さんっていって、管理室で働いてる人なんだけど。
たまに管理室で一緒にお昼食べるの。
癒しの田中さん、って知ってる?」

「お名前だけは」

「紀美子さんは、田中さんの奥さん」

「へえ。夏堀さん、ビル内に親しい人多いよね」

「そうかな」

「うん。コーヒーの店長とも仲良さそうだし」

伊坂君は、バンブーを飲んだ。

「あのさ、カボリさん」

伊坂君が言いかけたところで、

「あれー?夏堀さん!?」

入口の方から、甲高い声がした。
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