ビルの恋
「金曜日のあれ、ごめん。いきなり」

エレベーターの扉が閉まるとすぐ、伊坂君が謝った。

もちろん、他に乗っている人はいない。

「なんで、謝るの?」

「急にムラッときて思わず・・・」

「やだ」
性欲のキスか・・・

「ごめん・・・もう一度、ここでしていい?」
伊坂君が聞く。

私は返事をする代わりに、背伸びして、伊坂君の首に腕を回した。
そして自分からキスした。

コーヒーとパンの入った紙袋が、音を立てる。

伊坂君は驚いてカバンを落としたが、構わず両腕で私を抱きしめた。

唇は重ねたまま。

29階に着くまでの、長いキス。

< 40 / 79 >

この作品をシェア

pagetop