赤イ糸ガ切レル時
万引きは犯罪です(刑法第235条違反)
「ちょっと待ちなさい。」
光はコンビニから出ようとする少女の手首を握った。
「なに!セクハラ?それとも援交の誘い!」
少女は挑戦的な視線を光に向けた。
「うーん。残念だけどセクハラや援交できるほどお金もないし、そこまで女性に飢えているわけでもないんでね。」
光は言葉を選びながら苦々しく笑った。
「じゃあなに?」
少女は笑みを崩さずに続けた。何かを楽しむかのような、幼い笑みだった。
「今、このドアをくぐれば僕はあなたを泥棒として警察に突き出さなければなりませんのでね。」
光は一度そこで言葉を切った。
「なんで?」
「あなたがカバンの中に商品を入れたのを見ていましたよ。」
光は嫌なものを吐き出すように言った。
「そう。」
少女はまだ笑みを崩していなかった。ただ、人が来たので光の方に一歩近づいた。
「チミは私に『お前は犯罪者だからはやく死ね!』って言うんだね。」
少女はうれしそうに話した。
『死ね!』という二文字に光は少し後ずさりした。
「違う!ただ、人のものをとるのはよくない。それはいけないことだ。ただそれだけで…。」
光の声が少し上ずった。それを感づいたのか少女が目を細めた。
「そう。じゃあ聞くわ。」
少女はカバンの中からお菓子の袋を取り出した。さっき光の目の前でカバンの中にこっそり忍ばせたソレだ。
「これっ。キャラメルコーンクリームソーダ味。原材料を見て!ここ。コーングリッツ!」
少女は目の前に原材料表示を掲げてその一か所を指差した。
「コーングリッツ。あの、イングリッシュマフィンとか作るときに使うヤツですね。それが何か?」
光は脳細胞の中でコーングリッツの七文字をあさった。だが、それと万引きを結びつける糸が全く見えてこなかった。
「コーングリッツ。原材料はそのままとうもろこし。つまり私の持っているこのお菓子はトウモロコシが主原料なの。」
少女は人差し指をぴんと立てた。
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