愛を込めて極北
あかつきに祈る
***


 次の日の朝、私は仕事を休んで楠木の事務所に再び出かけた。


 「おはようございます」


 「美花ちゃん、ご苦労様」


 事務所ではスタッフさんが寝ずの番をしていたようだ。


 「百合さんは?」


 「まだ隣の楠木さんの自宅で休んでる。合鍵持ってるし、家の中は熟知しているから」


 「……そうですね」


 婚約者として楠木と一緒に過ごすことの多かった家の中で、百合さんは眠れぬ夜を過ごしていたのだろう。


 「……?」


 ふと気が付くとスタッフさんたちが、客間に置かれたテレビを取り囲んでいる。


 「どうしたんですか?」


 「いや、朝のワイドショーの番組予告を新聞で見たら、楠木さんのニュースが取り上げられるらしいから」


 「えっ、ワイドショーで?」


 事態がよく飲み込めず、新聞のテレビ欄に目を通す。


 朝のワイドショー番組の紹介欄、政治や芸能ニュースに混ざって、「北極圏で旅行家行方不明」との文字が目に入る。


 「ワイドショー……。全国ネットで取り上げられるんですね」


 「昨夜遅くに、現場画像の提供を求める連絡があったんだよね」


 遭難現場ははるか極北であり、日本のワイドショーで特集されても別に手がかりが見つかるとは考えにくいし。


 かえって変な騒ぎになるんじゃないかと危惧された。
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