3ヶ月だけのママ~友達が妊娠した17才の夏~
 未成年でも生活保護は受けることは出来るらしい。
 でも、経済的な理由で中絶は受けられる。

 生活保護を申請しに行った妊婦さんが、なぜ中絶しないのか聞かれたっていう書き込みもインターネットにはあった。

 少子化だ、出産は早い方がいいとか言うくせに、産ませてくれない。

 子どもがかわいそうって言う。
 育てられないなら産むなって。

 産むなって、赤ちゃんはもうここにいる。
 妊娠するなさせるなじゃなくて、産むな?

 中絶しろって?
 税金がもったいないから、赤ちゃんに死ねって?

 学生が子ども産むなんて、就職してすぐは妊娠するな、不景気で結婚して子どもが育てられる経済力が出来ることには晩婚だ。
 じゃあ、不妊治療だ。

 不妊治療をしてる人もいるんだから、マタニティーマークは不謹慎?
 マタニティーマークをつけてない妊婦さんが意識不明で倒れたら、妊娠初期でお腹が出てなかったら、誰が赤ちゃんのことを気遣ってあげられるの?

 不特定多数の、不特定多数に向けられた悪意が、自分にも向けられている気がした。
 だって、私も女だ。
 これから妊娠することだって、あるかもしれない。

 避妊してても妊娠するって、啓子は言った。
 結婚した後も、想定外の妊娠はあり得る。
 啓子みたいな若者の中絶だけじゃなくって、既婚者や中年以降の中絶も多いらしい。
 結婚してる大人は、中絶なんてしないんだと思っていた。

 今の千奈美がいる場所は、誰にだって立つ可能性のある場所だ。


「絶対嫌になる。お母さんなんて嫌になる。だって、わたしは胸を張れない。お母さんになるんだって、言えない。こんな中途半端な気持ち……!」


 千奈美は先生に諭されて、現実を見て、涙を流す。
 私は、そんな千奈美を見て涙を流す。

 私は千奈美に『私も高校辞めて働く』なんて言えなかった。
 私は千奈美に『私も一緒に子供の世話する』なんて言えなかった。
 そんな無責任なこと、言えない。
 私には、なんの責任も負わされていないし背負う資格さえない。

 例え言って千奈美と一緒に高校を辞めて働いたとしても、千奈美と二人で赤ちゃんを育てたとしても……
 そんなの、長続きするわけがなかった。

 千奈美が『産む』と言えないのと同じ様に、私は本当の意味で『助ける』だなんて言えなかった。
 私は千奈美の友達で、親友で、それ以上でも以下でもない。


「なんで、なんで……!」


 強くコンクリート押し当てた千奈美の拳から血がにじむ。
 赤い筋がコンクリートの上に描かれて、私はその手を受け止めるしか出来ない。


「千奈美、手……痛いよっ」


 私が手を押さえても、千奈美は手を擦るのをやめなかった。
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