3ヶ月だけのママ~友達が妊娠した17才の夏~
「千奈美が自分で言えば俺は悪くない。赤ん坊を殺す選択をしたのは、千奈美だ……!」
酷いことを言う夏樹を、また殴ってやりたいと思った。
思わず腰を上げて、飛び出して行きそうになる。
でも、私が飛び出していく前に俊輔くんが立ち上がって振りかぶっていた。
「今度は、おれが殴ってあげようか?」
夏樹に向って拳を振り上げた体勢とは裏腹に、俊輔くんの言葉は落ち着いている。
「そうしてもらいたいぐらいッス……」
夏樹は逃げるでもなく、俊輔くんの言葉を受けてうなだれた。
「殴ってやんねーよ。殴られて楽になるぐらいなら、ずっと苦しんでろ」
俊輔くんが拳を引っ込めたのを見て、私も浮かした腰を落ち着かせる。
隣の啓子は二人のやり取りを気に止めていないようで、携帯電話をいじっていた。
興味がないのか、それとも聞きたくない?
「見舞いも拒否られて……俺、これからどうすりゃいいんだろ」
「自分で考えろ」
冷たく突き放す言葉が鋭い。
「……俊輔さんは、ホント凄いッスよね。今でも彼女を支えてるんですから」
本当にもう千奈美と夏樹の関係は破綻してしまっているんだと思う。
修復の余地はないように思えた。
でも、啓子と俊輔くんはまだ一緒にいる。
それは本当に凄いことなんだと思う。
「凄くなんてないよ。支えてるわけでもない。……高校を卒業したら、別れる約束だし」
「え……?」
俊輔くんの言葉を聞いたとき、思わず私は小さく声を出してしまっていた。
大変な苦難を乗り越えて、強い絆を手に入れたように見えていた啓子と俊輔くん。
千奈美も二人に嫉妬して、啓子に酷いことを言ってしまったぐらい。
なのに、その二人が高校を卒業したら別れる約束になっている?
知らなかったし、信じられなかった。
確かめるように啓子を見ると、啓子は携帯電話から顔を上げて頷いた。
「なん、で……?」
「アタシがそうお願いしたの。高校卒業するまででいいから、側にいて~って」
終わりが決まっている関係だなんて、まったく気づかなかった。
「俊輔は、東京の大学に行くんだよ。夢があって、ずっとそのために勉強してきた。だから堕ろして欲しいって、土下座されちゃったしー」
垣間見える、啓子と俊輔くんの間に起きたこと。
あの俊輔くんが中絶して欲しいと土下座しただなんて、信じられない。
「だから、俊輔が大学行くまでの約束なのよ~」
歌うように、なんでもないことみたいに、啓子は言う。
「でも、でも……啓子は本当にそれでいいの?」
啓子は微笑んだだけで、なにも言わなかった。