かうんとだうん
10

見かけた、それだけ。

一目惚れは、嘘っぽいってずっと思ってたし、面食い見たいって思ってたし、恋するなら絶対中身を知ってから。

そして、すてきな人と恋に落ちる。

それが、わたしの思い描いてた王道ストーリー。




わたしは電車に乗ってた。
初詣に行くために。

今日は1月1日。
初詣なんか行ったことないのに、行ってみようって、ふと思っちゃったんだよね。
まあ、生きてる間に色々やりたいって思って。ちょっと大袈裟かな?

電車は満員だった。
どこを見ても、人。人。人。


「きゃ!」

女の人の声がした。
酔っ払いの強面なお兄さんに絡まれてた。

まわりの大人は知らんぷり。

助けてあげたいけど、わたしみたいな女の子がどうこうできないし、あいにく特急列車でなかなか止まらない。

や、やっぱり、見て見ぬふり出来ない。でも、どうしたら。


「あの、嫌がってるじゃないですか。」


突然男の人の声がした。
わたしと同じくらいの歳の。でも細くて、強面のお兄さんに到底適わなさそう。


案の定、強面のお兄さんは、そんなことで怯まない。
なんなら気迫だけで、もう男の人は負けそう。殴られて、蹴られて、痛そう。やっぱりまわりの大人は知らんぷり。


わたしはどうすることも出来なくて、車両にあった、非常通報器のボタンを思い切り押した。

すると、大きな音が響き渡り、途中の駅で停車した。まわりの大人はいらいらしてる。

駅に着いて、わたしは駅員さんに事情を話した。駅員さんはそんなこと取り合ってくらなくて、なんなら騒がないでください。と、わたしと男の人を咎めた。


なんて世界だ。新年早々最悪すぎる。
助けを求めても、知らんぷり。助けたら怒られる。なにそれ。

わたしはいらいらして泣きそうになってた。


男の人と目が合った。半泣きの顔見られたかも。


「助けてくれてありがとうございました。」

「あの、いや、わたしなんて、何もできなくて。だから、わたし、あなたがすごいなって思って。」

「いや、俺はすごいびびってたんで。案の定このざまだし。ださいですよね。」


男の人は、はは。っと笑った。

そんな私たちを見て、被害者の女の子がやってきた。

「さっきはありがとうございました!本当に助かりました。」

「あっ、いえ。」

「これから、初詣ですか?もし、ご都合なかったら、飲み物のいっぱいでも奢らせたいただけませんか?」

「そんな!いいですよ!!!この方はともかく、わたしは何もしてないし。」

「そんなこと言わないでください。2人にお礼できないと、わたしの気が済みませんよ。」

「じゃ、じゃあ。そこまで言うなら。」

男の人が言った。


なんだ。このメンツ。



って思ってたけど、案外話しがあって、歳もみんな近くて、考え方も何となく似てて、連絡先まで交換してしまった。

今の若い人こわ。


でも、とても楽しい時間だった。

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