狼陛下と仮初めの王妃


柔らかな唇をきゅっと引き結び、まっすぐに見つめて来た青い瞳は気丈だったが、涙を堪えているようにも見えた。

サヴァルの目には、アーシュレイとともに出て行くコレットの姿が焼き付いている。

ケジメをつけねばならぬこととはいえ、小さな背中が扉の向こうに消えていく瞬間、抱き止めたい衝動に駆られてしまった。


サヴァルは、ふと腕組みをといて手のひらを見つめた。

コレットの華奢な体の柔らかさとぬくもりは、まだはっきりと残っている。

腕に抱いて眠るたびに愛しさがつのり、このまま自分のものにしたいと思ったのは一度や二度ではない。

毎度飛びそうになる理性をつなぎとめていたのは、“彼女がここにいるのはお沙汰である”という事実のみ。

国王として夜の営みを命じることもできたが、それはしたくなかった。

いや、できなかった、というのが正しい。

無理矢理に奪えば、コレットの綺麗な心が壊れてしまいそうだった。


「まさか、これほどに惚れてしまうとはな……」


ソファから立ち上がったサヴァルは窓際まで行き、ひじ掛け椅子の背もたれ部分にそっと触れた。

また、ここに座って刺繍をする姿を見せてほしいと思う。


『陛下。お沙汰として、コレット・ミリガンを仮の妃に据えましょう』


コレットにミルクをかけられたあの日、アーシュレイはとんでもないことを提案してきた。

参謀であるアーシュレイは有能で頼れるが、腹黒な男だ。

内戦が終わって即位してからも、この国には未だくすぶる反抗勢力問題がある。

妃問題と同時に解決できる可能性があると言って、腹黒男はメガネをギラリと光らせた。


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