待ち人来たらずは恋のきざし

野菜炒めと玉子スープを作った。
ハンバーグもクリームコロッケも美味しいと言って食べてくれた。

「聞いてもいいですか?」

「何?」

「…仕事は何をしているのですか?」

「参考程度?」

「え?」

「突然こんな事になった男。何も知らない、得体が知れない。
一体どんな仕事をしているんだろうか。それだけでも聞きたい。
もしかしたら無職かも知れない。危ない人かも知れない。
どんな職業でもいい。
取り敢えず、年収はいくらくらいなんだろうか。
職業が解れば大体解る、とか思った?」

…。

「もう、いいです。
ただ何となく、何も知らないと思ったから、聞いて見ただけです。
別に、胡散臭いとか、年収だとか、聞きたかった訳じゃ無いです」

「だったら、仕事はちゃんとしてる。生活出来る収入はある。以上」

…何よ、もぅ。

「お風呂、溜めて来ます。溜まったら先に入っちゃってください」


浴室に行き、お湯を出した。

もう、なんなのよ…。
…まあ、確かに?それ程、聞きたくて聞いた事では無い。
職業は知らなくても別にいい事ではあった。
だけど…、来れなかった事に仕事が関係してるんだろうかと思ったからよ。
だから何となく聞いていたのよ。
収入とか、そんな事、知りたかった訳じゃないんだから…。
私だって仕事はしてる。自分で生活出来てる。
そんな浅ましい事、考えた訳じゃない。…何よ。


「…景衣?」

あ、…な、に?

「あぁ、良かった、大丈夫だったか…。
中々、戻って来ないから、急に具合でも悪くなって倒れてるんじゃ無いかと思って」

「それは…大丈夫です。
ちょっと…、お湯が出るのを見てたらボーッとしてしまっただけですから。
大丈夫ですから戻ってください」

お湯に手を入れパシャパシャさせていた。
心配して覗きに来てくれたって事?…。

「怒ったのか?景衣」

「え?」

「さっき、俺が言った事に。と言うか、言い方に」

…。

「怒ってなんか無いです。私には…関係無いから。

何にも興味も無いのに、聞いた私が悪かったんです」

「その言い方、やっぱり怒ってるよな」

「怒って無いです」

「ほら、怒ってるよ」

「怒って無いです。怒って無いって言ってるのに、怒ってるって言うからでしょ?
しつこく言うからでしょ?」

「いや、怒ってる。
興味無いなんて嘘だろ?」

「え?」

「仕事とか、年収とかじゃ無くて。
俺に興味が湧いたって事だろ?」

…何よ。

「生きてるかどうか、心配してくれたんだろ?」

「そんなの、当たり前だって言ったでしょ?
ずっと来てたのに、急に来なくなったと思ったら、…ずっと来ないのよ?
生きてるか心配するでしょ、普通。
それは普通の事です」

「嬉しかったか?」

「え?」

「今夜、俺が居て」

…何よ。

「どうなんだよ、…景衣」

あ、…。
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