待ち人来たらずは恋のきざし


「景衣、こんなのは嫌じゃないか?
別にやり逃げしようって訳じゃない。
こんな形でする事に後悔は無いか?」

え…この期におよんで、随分きめ細かい事を言うのね。
やっぱり根は純粋な男なのかも知れない。

私の年齢やら状況やら何もかも気にしたのね。
だから確認を。

…やり逃げするつもりは無いと言った。

つまり、したからって、これっきりでは無いって事だ。…言葉を信じるならだけど。

そこまでして、私を抱こうとしている意味はなんだろう。

凄く当たり前の事を口にしていた。


「もしかして、本当に本当の真剣なおつき合いって、思っていいの?」

「…はぁ、…当たり前だろ。…何を今更。
最初からそのつもりで言ってる」

「え、だって、やっぱりお試しって、何だか言葉が、ノリだけみたいで」

「…軽いか」

「そう、そうです、そんな感じです。
だから…解らないって事ばかりがいつも浮かんで」

「お試しはきっかけの一つだ。からかった訳じゃない。
調子よく聞こえたかも知れないが。
真面目だ、大真面目だ。
だから、して後悔しないか聞いてる。

雑に思って言う訳じゃないけど、抱きしめてキスする事は、それ程、後悔するなんて事には当て嵌まらないだろ?」

…確かに。キスくらい、とは言わないけど、して後悔したと、そこまではならないと思う。
抱きしめられる事も。


「ここから先は、好きじゃなきゃ後悔するだろ?」

「…はい。そういうモノです」

好きなら後悔しない。
…好きじゃなきゃ出来ない。好きだからしたいモノ。

「眠れないのは、男と女が一つのベッドに寝ている事、単純にそれにドキドキしているだけか?」

…。

「その上に、キスしたからか?抱きしめたからか?
単純にその行為のみにドキドキしたからか?」

「…好きだから、眠れない」

「キスが?…抱きしめた事が、好きなのか?」

「…貴方が好きだから眠れない」

男に口づけていた。

「ぁ…私、言わされた気がする」

急に恥ずかしい。

「景衣が中々自覚しないからだろ。言わせたつもりは無い。
…自発的にだ、今のこれだって、景衣からしたんだ」

男に口づけられた。

「…いいんだな」

「…いいです」

好きだからいい。

「…明日、仕事は?」

「…フ、ずるいかも」

「何」

「だって…、午後からだから」

「…それは知らないな」

「…うん…偶然」

「あぁ…偶然だ。俺はラッキーしか呼ばない男だから」

…それは言い過ぎでしょ。

「景衣…」

右手が頬に触れたと思ったら男の唇がまた食んでいた。

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