待ち人来たらずは恋のきざし

私の身体を前向きに戻してお風呂から上がろうとした。
その腕に触れた。

「ん?どうした。一緒に出るのか?」

「…はい。だってそうしないと、…居なくなるかも知れないから」

「…フ。…今日はそんな事無いよ」

「でも…この前、…居なかったから」

男が座り直した。

「この前…は、先に出るって言ったと思うけど?」

「あれは、お風呂を、っていう意味でしょ?」

「んー、出るかって言ったのが、風呂からって事で、先に出るって言ったのは、部屋を先に出るからって、つもりで言ったんだ。
仕事だ、仕事」

「…もう、何よ、それ…。
言葉を省略し過ぎてると思いませんか?
そうとは取れませんでした…。
だったら、今、一緒には出ない。
居るんですよね?」

「居る。折角だから一緒に出よう。
アイスクリームも一緒に食べられるし」

「でも…」

「なんだ。いざ出ようとしたら恥ずかしいのか?
だったらバスタオル、サッと巻けば大丈夫だろ?」

「でも…」

それまでの間があるもの…。

「じゃあ、先に出るから、ちょっとだけ後に出たらいいだろ?
消えたりしないから大丈夫だ」

「…うん、絶対よ?絶対居てよ?」

…。

「何だ景衣…。
こんな事を言うのは今だけなのか?
だとしても、今日は凄く可愛いな」

…。

「だって…、前に居なかった時、一人ぼっちになったみたいで…置き去りにされたような、そんな気がしたから」

「…もう。だったら来い」

「え?」

「ベッドに戻るぞ。アイスクリームはまだお預けだ」

「え?え、ちょっと、一緒に出るのは嫌だってば。居るならいいの」

「つべこべ言うな。運んでやるから。
いや、運ばせて頂きます」

…だから、素で見られるのは嫌なの。
何よ…運ばせて頂きますなんて…下手に出たような事言って…。

「い、や。居るならいいの。一人で先に出てください」

「いいのか、居なくなってるかもよ?」

「そんな…居るって言ったじゃないですか」

「解んないぞぉ」

「そんなのずるい」

「だから運ぶって言ってるだろ?」

だから、もう…。

「放っておいて」

…。

ザバッと勢いよく立ち上がった男は、一人で出て行った。

もう…黙って出て行くと気になるじゃない…。
拗ねたの?怒らせたの?
私が悪いの?
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