1405号室の佐藤
「よしんばお前が東大とハーバード出たバリバリのキャリアウーマンだったとしても、お前は確実にアホだ」

「だから、なんで!」

「今のお前の状態を見れば一目瞭然だ」


佐藤はそう言って、煙草の煙をあたしに向かって吹き付けてきた。


「だってお前、少しも考えてないだろ? お前が今そこから飛び降りたら、どうなるか?」

「………そんなの、分かってるわよ。地面に叩きつけられて、即死よ」

「その後は?」

「え?」


予想だにしなかった返しに、あたしは動きを止めた。

両足の爪先の間に見える見知らぬ男の顔を、じっと見下ろす。

ぼさぼさ頭の男が、また一口煙草を吸った。


佐藤は煙草をはさんだ指で、ずいっとあたしを指差した。


「お前が地面に叩きつけられて死ぬのは勝手だが、
その第一発見者になったこのマンションの住人は、ただの肉塊と化したお前の死体を見て、下手したら一生消えないトラウマを背負うことになるだろうな。

そして、腸やら脳みそやらが飛び出してぐっちゃぐちゃになった死体を片付ける奴らも哀れだ。
片付けた後も血やら脂肪やらの汚れはしばらくマンションの駐車場にこびりついて、グロテスクな様相を呈するに違いない。

死人が出たマンションなんて気味が悪いから、面倒くさいながらも引っ越す住民が続発するだろう。
だが、飛び降り自殺者の出たマンションに進んで住みたがる奴はいないから、このマンションは空室だらけになる。

オーナーは困って家賃を下げるだろうな、そしたらオーナーの生活は苦しくなる。
オーナーにも家族がいるだろうに、まったく気の毒としか言いようがない。

………ほら、な。お前がここで飛び降り自殺をしたら、数え切れないほどの被害者が出るんだぞ?
お前、一瞬でもそういうこと考えたのか? あ? どうなんだ?」




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