1405号室の佐藤
あたしは目の前のウイスキーをつかんで、瓶ごとぐびぐびとあおった。


「おっ、いい飲みっぷりじゃねえか!」


佐藤が嬉しそうにからから笑う。

その顔が赤くなっているところを見ると、だいぶ酔っ払ってきたらしい。


「あっ、そーだ!」


佐藤が唐突に、何かを思いついたように手を打った。

何事かと目を向けると、佐藤はあたしのスマホを指差している。


「………なに?」

「今から電話しちゃえよ!」

「はっ!?」


驚愕するあたしを尻目に、佐藤は勝手にスマホを手に取り、あたしに押し付けてきた。


「ちゃんと話しあって、言いたいこと言ってねえから、そんなに未練たらたらなんだよ。今から電話して直接はなせばいいじゃん。別れ話メールで済ますなんて、ろくなもんじゃねえ」

「そ、そんなこと急に言われても……」


スマホを持った手が、勝手にかたかたと震えだした。

直接別れを切り出されるとか、そんなの、怖すぎる。


だって、まだ…………

浮気されて、一方的に捨てられて、そんな仕打ちを受けてもまだ、あたしはあいつが……ユウジが好きなんだもん。


別れようって最初にメールをもらったときも、信じられなくて。

こんなことしたらウザい女だって分かってたけど、なんで?どうして?って何回も訊いて。

他に好きな子がいるって言われても、あたしと会ったら気持ちが変わるんじゃないかって思って、もう一回会いたいって、しつこく言って。


なんてみっともないことしてるんだろう、って自分でも思ったけど、どうしてもすぐには諦められなかった。


そんなやりとりをしているうちに、ユウジは面倒になったのか、ずっと二股かけてたんだって打ち明けてきたのだ。


< 8 / 14 >

この作品をシェア

pagetop