夜界の王



グレンダの家に引き取られてから、1ヶ月が経っていた。


グレンダはアーシャが予想していた通り…いや、それ以上に陰湿で傲慢な女だった。


(あの(ひと)は私を虐めて楽しんでるんだわ)


なんて歪んだ人間だろう。まるで悪魔だ。


あんな人があの優しいイライザ()の姉だなんてとても信じられなかった。


毎日毎日、こんなことの繰り返し。

炊事、洗濯、掃除。家事全てを押し付けられて、アーシャは丸一日休みなく働き通しだ。


母と2人で暮らしているときも慌ただしく薬品作りや家事に追われていたが、そのときとは環境も気分も、ぜんぜん違う。


誰かと一緒に他愛もない話をしながら皿を洗うわけでも、ちょっとの失敗を笑い飛ばせるような楽しい雰囲気なわけでもない。


ここに来てから、アーシャはめっきり笑わなくなった。いや、笑えなくなってしまったのだ。


グレンダから浴びせられる暴言と暴力の数々と、ボロ雑巾のように扱われる生活に、心身ともにぼろぼろだった。


こんな生活を一生続けるなんて耐えられない。

逃げ出したい。いますぐに。


こんなとき、決まって思い出すのは死んでしまったイライザの顔だった。

いつも自分を気遣ってくれた優しい母。

肩を揉んであげたときに嬉しそうに笑っていたあの表情が、もう二度とみることはできないのだと思うと、アーシャはどうしようもなく苦しくてなって息が詰まった。


実の叔母にこんな仕打ちをされていると母が知ったら、どう思うんだろうか。怒るだろうか、それとも悲しむだろうか…。

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