嘘に焙り焙られる
「カット―」念願の言葉だ。
しかし、待ちに待った監督の言葉が桐子の頭の中では淀んでいた。
なぜなら、同時に直矢の唇が手の甲へ柔らかく触れたからだ。
息をする間もなく、それらは一瞬で行われた。
直矢はすでにモニターへと直行し何事もなかったかのよう、シーンをチェックしていた。
絶妙なアングルで最後のキスはカメラに映っていなかった。
この雰囲気では、まったく手の甲へのキスは周囲に気付かれる様子もない。
なぜならシーンを見返せば、腕や手首を直矢に甘噛みや舐められているかの如く、艶めかしくより過激に撮影されていた。
「これ、本当に噛んでるわけではないよね。」
「あ、はい。勿論です。」と確認をされても動じない直矢がいた。
「いちゃいちゃしてるのは、充分伝わるからOK」
マネージャーらを含め満場一致でOKとなった。