repeat
第7話

 
10月27日(木)PM5:00。
 駅前からちょっと離れた小さな喫茶店で、真と彩花は向かい合って話をしている。大通りを敢えて避けたのは、人気の多い店で晶と鉢合うことを真が危惧した為だ。
「小林さんから渡された用紙を何度も読み返して現状は把握した。そして、最優先で考えるべきは『リピートを解決できる状況を作ること』だと分かった。リピートされてまた最初から説明を受け、ちょっとずつ推理を進めて行くのは効率的じゃないし限界がある」
 彩花は感心しながら真の話を聞く。
「だから晶はリピートの根本的な解決ではなく、リピートの協力者を作る作戦をまず指示したんだと思う。今の状況はリピートを解決できる状態じゃないからね」
 カプチーノを一口飲んで真は一息入れる。一方彩花は注文したミクルティーにまだ手を付けていない。
「晶ほどとはいかないかもしれないけど、僕のできる範囲でこの件には協力するよ」
「はい、ありがとうございます。本当に晶の言う通りだった」
「言う通り? 晶のヤツ僕のことについて何か言ってたのかい?」
「はい、実は晶から聞いてたんです。真さんも晶と同じくらい頼りになる、って」
「いやいや、それは晶のお世辞さ。晶に比べたら僕なんてまだまだ。迷う方の『迷探偵』ってよく言われてるくらいさ」
 真はちょっと照れながら応える。
「そうですか? 私から見たら真さんも晶も同じように頼りになる気がしますよ。何より、今回のこの作戦も真さんが提案したって晶は言ってましたし」
「僕がこれを提案したのか? う~ん、実際に提案してないからいまいち実感がないな」
「二回目の木曜日に、真さんと晶は二人でリピートについて話し合ってくれたそうです。その中で真さんが男性への相談がないことに気付いて提案したらしいんです」
「なるほど」
 彩花からの説明を受けてから真は少し考え込む。考え込むとき耳たぶをさする癖は相変わらずだ。しばらく考えて納得したのか真は話を切り出す。
「ときに小林さん。用紙に書かれてあった、晶と初めて話したときの出会いが偶然というのはどういう状況だったんだい?」
「それは私が体育の授業中に怪我をしたことが発端で、怪我をした私を助けてくれたのが晶だったんです。そのときの冷静な対応や考え方を目の当たりにして、晶ならもしかしたら解決してくれるかもって思って相談を持ち掛けたんです」
「ふむ、でもその日はリピートをした。そして、次の日、二回目の月曜日は小林さんのミスで接触できなかった。このミスって何?」
「それは、私が怪我を避けたからです。前回の月曜日に怪我をすると分かってたので怖くて怪我を避けた。だから晶と接触出来なかった」
「なるほど。じゃあ月曜日一回目の晶がリピート以後、さりげなく気付かせる行動を取るようにアドバイスをしたのは、小林さんが月曜日の怪我を避けることを予想してのことだったんだろう。呆れるくらい頭のいいヤツだ……」
「えっ?」
 彩花は理解できないといったふうに訝しげな表情をする。
「晶は小林さんからリピートの話を聞いた時点で、一回目の月曜日がリピートすることを予想してたんだよ。さらに、二回目の月曜日で小林さんが怪我を怖がり事故を避けて接触がないことも予想してた。その上で、リピートの内容6をも推測し、さりげなく晶に気付かせるアドバイスをしてたってことさ」
 真は呆れ顔で晶の計画を説明する。詳しい説明を聞いた彩花は、その説明が完全に当たっていることに驚いている。
「あ、あの、晶って何者なんですか?」
「えっ? もう友達なんじゃないのか?」
「いえ、リピートの相談以外の話はほとんどしないから、実は晶のことは知らないことが多いんです。生徒会の監査役というのと、入試のとき全教科満点を取った女の子、くらいしか知らないんです」
「言われてみれば僕も晶のことはあんまり知らないんだよな。ま、端的に言えば晶は名探偵さ。晶のお兄さんが本物の探偵だしね。今まで三回晶と話したんなら小林さんも感じてるはずだよ。晶が凡人じゃないってことをね」
「ですね。晶の口癖」
「天才だから、だろ?」
「はい。私は最高の人に相談を持ち掛けたのかもしれない」
「最高の人、じゃなく、最高の人たち、にしてくれた方が僕的にも有り難いんだが」
 真はわざとイヤミを言って笑う。彩花もつられて笑顔を見せる。問題は全く解決していないが、心強い味方が二人もできて心底ホッとしているのだろう。ちょっと冷めたミルクティーをやっと口に運ぶ。
「私、真さんと晶に出会えて本当に良かった。今なら何度リピートしても怖くない。だって、最高の人たちが私の力になってくれてるのだから」
「今は僕だけの協力になるけど、リピートの法則が分かってきたら、解決に向けて晶に再び加わってもらうことも可能かもしれない。それまでは二人で力を合わせていこう」
「はい、改めてよろしくお願いします」
「こちらこそ、どこまで力になれるか分からないけど、よろしく」
 差し出した手を彩花は握り返す。真の手は彩花より若干冷たいようだ。
「あ、すいません。そろそろ母親から電話が掛かってきて帰らないといけないんです」
「分かった。じゃあ、もしリピートせず明日また会う事ができたら、具体的な解決に向けて話し合おうか。そして、晶との接触を考えて念のため明日もここで話そう」
「分かりました。では失礼します」
 礼儀正しく挨拶をして彩花は店を後にする。真はしばらく黙想をしたのち、彩花から渡された用紙をめくり、晶からの伝言部分を読み返す。
「この意味……、そうか! 多分そういう意図なんだろうな。敢えて、か」
 真は一人納得しながら用紙の内容を何度も読み直していた。


< 7 / 21 >

この作品をシェア

pagetop