ifの奇跡
それきり言葉を発しない彼の悲しそうな背中を振り切り、私は静かにそのホテルを後にした…。

ソファの上に散乱していたバッグの中身を探ってスマホを手に取ると

案の定、美沙からメッセージが入っていた。


美沙に返信を返した。


家に帰り着いた私は、そのまま靴も脱がずに玄関に座り込んだ。

バッグの中でスマホが震えている…。


「もしもし…」

『莉子?メッセージの意味がよく分からなかったんだけど、あれって』

「美沙…私もう苦しい…」

『どうしたの、何があったの?』

「冬吾のことが、やっぱり好きなの…好きで好きで苦しい……」

『莉子……』

「だけどね…あの子が、あの子の事を隠したまま冬吾とはいられないから…やっぱり無理なんだよ」


その時、玄関の向こうから “カタンッ ” という音がしたと思ったら、ここにいるはずのない、ここを知るはずのない彼の声がドアのすぐ向こうから聞こえてきた。


「莉子…?」

「とう…ご」
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