不思議な眼鏡くん

池袋駅に十一時待ち合わせ。

結局水族館に行くことにした。改めて二人でというのが、なんだかこそばゆい気がする。

咲は落ち着かなげに、肩に下ろした髪を触った。細身のデニムに、短めのジャケット。ヒールは少し高めを履いてきた。精一杯のおしゃれだ。

「咲さん」
声をかけられて顔を上げると、響が立っている。濃紺のチェスターコートに、グレーのパンツを合わせている。白いマフラーを指で引き下げると、響の口元が現れた。

「咲さん、カジュアルも似合うね」
「……ありがとう」

咲は響と反対に、マフラーを顔の半分まで引き上げた。

じっと顔を見られるのに、慣れない。どうしても照れてしまう。

「ん」
響が手を差し出した。

「何?」
「手。つなぐでしょ」

ニッと笑う。

「うん」
咲は素直にその手を取り、二人は歩き出した。

私服の響は、スーツの時より三割り増しに見える。咲はむやみにドキドキし始めた。

「水族館、久しぶり。小学校以来かもしれない」
咲は言った。

「ずいぶん来てないね」
「女友達と来るようなところでもないし。田中くんは?」

咲が尋ねると、響が肩をすくめる。
「さあ、記憶にないな」

咲は眉をしかめた。
「しょっちゅう来てるんだな、さては」
「どうだろ」

知らぬふりで、響は言った。

冷たく乾いた空気の中で、二人でつないだ手が温かい。横を見上げると、響もこちらを見ている。
「なんで見てるの?」
咲の顔が赤くなる。

「そっちもなんで俺を見てるの?」
「それは……」

気になるから?

咲がそう思った瞬間「おんなじ」と響が言う。

咲の顔がさらに赤くなる。
「田中くんって、人の心が読めるんでしょ?」
「読めないよ」
「じゃあなんで」
「咲さんって、いろいろが顔に出るタイプだから」

そう言うと、響がたまらないというように笑う。咲は手を振り切ろうとしたが、ぐっと指を握り締められた。

「離さないって」
響が言った。
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