差し伸べた手
想いを乗せて
今日のツアー客は四人だ。四人が最大受入数なので満員ということだ。

朝からスイーツを準備しデッキを掃除、ゴロンと横になれるようにクッションやシートも広げておく。

時間になったので最寄り駅までピックアップに向かう。

列車がやってくるのが見えたので車から降りて無人改札の前で待つ。

電車の扉が開き、しばらくして閉まる音がして次の駅へと発車する音が聞こえる。

そして改札から出てきたのは直だった。

夢なのか。亜子は呆然と立ちつくしている。

直はそっと手を差し出し

「迎えに来たよ」と言った。

「あ、ツアー客って・・・」

「僕だよ。亜子を独り占めしたくて四人で申し込んだんだ。他の人が入れないようにね」

「馬鹿じゃないの」と言った顔が涙で歪んでいる。

「こらこら。お客さんを放置して泣いてどうするの?案内してくれないと困ります」

「もう」

再び抱き合う二人。

突然の別れの日に抱き合った直の感触が今ここにある。

このまま離したくない。離れれば遠くに行ってしまいそうで強く抱きしめる。

「亜子、苦しい」

その声が聞こえて慌てて手を離す。

「ごめんなさい。最後にハグをして直が居なくなったから。離すと居なくなりそうで怖いのよ」

「居なくならない。ほら」と手を出して亜子の手を繋ぐ。

二人は手を繋いだまま、停めてある車に向かう。

見慣れた風景のはずだが違った色に見える。

助手席に乗った直は

「『奇跡の丘』へお願いします」と言うと亜子は同じ事を思っていたかのように黙ってそちら方面へ走り出した。

手を繋いで丘を登る。

登り切ると湖が姿を現す。

無言で絶景を眺めていると直が亜子の繋いだ手を強く握り直した。
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