差し伸べた手
都会の空の下
東京では世間から見ればキャリアウーマンというカテゴリーに属していたのだろう。

自覚はなかったが周りがそう呼んでいたからだ。

アパレル業界は亜子の憧れの職場であった。

田舎では服に興味を持っても買いに行く場所も着ていくところもなかった。

そんな亜子がアパレル業界に興味を持ったのは高校生の頃たまたまファッション雑誌をみる機会があり衝撃を受けてからである。

同級生のお姉さんが東京で働いており、そのお姉さんがくれたファッション雑誌を同級生が学校に持ってきたのだった。

華やかな洋服に身を包みおしゃれをしてポーズを取る女性達のその洋服に魅了されたのだった。

こんな綺麗な洋服に囲まれて仕事がしたいと高校を卒業して迷わず北海道から東京に出てきたのだった。

両親は猛反対した。

それはアパレル業界で働くことではなく、亜子が東京で一人暮らしをするということに猛反対したのだった。

都会は怖いという認識が強い田舎ではよくあることで亜子は必死に説得しそんな姿に両親は根負けしたのだった。

アパレル業界の正社員の就職口はなかったのだが、求人サイトで契約社員の仕事を見つけていた。

それも寮付きということで両親が上京に納得する材料の一つとなった。

アパレル業界といっても洋服を扱う通販会社で実店舗はなくインターネットのみで洋服を販売している会社であった。

亜子の見た募集はお客が注文した商品を倉庫からピッキングし箱に詰めて発送するという仕事内容だった。

本音を言えば服を作ったり仕入れたりしたかったが、田舎の高校生にはそんな技量もないので妥協をせざるを得なかった。

でも亜子はたくさんの洋服に囲まれて仕事が出来るというだけで胸が高鳴った。

そしていつか仕事振りが認められて洋服を作ったり仕入の仕事が出来るかもしれないという期待も大きく夢見心地で上京した。

 同僚達が言うには上京した日は寒い日だったらしいが亜子のような北国の出身者からするとそんな記憶はない。

その日、契約社員として入社したのは亜子を合わせて女性ばかり三人だった。全員高卒の地方出身者ですぐに仲良くなった。

通販の商品が置いてある倉庫は巨大でアルバイトや社員を合わせると随時四十人位働いていた。

倉庫の横にある建物はパソコンがずらりと並んだ事務所になっていてこちらでは十人位の人が働いており、ネットからの注文処理をされその注文書が倉庫に回ってくる仕組みである。
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