僕は弟には勝てない
 僕の名前は柳田将夫。
 今年の5月に30歳になった冴えない男だ。
 昔からデブで、剛毛のクセっ毛。
 度のキツイ眼鏡をはめていて、もともと細めの目がより一層小さく見える。
 おまけに一重。
 鼻はそれに似合わずだんご鼻。唇も厚めで、肌はいつもテカッている。
 
 僕には5歳年下の弟がいる。
 僕とは似ても似つかないイケメンだ。
 何で僕達がこんなに似ていないのかというと、僕は母の連れ子で、新しい父との間に生まれたのが弟だ。
 僕は、本当の父の遺伝子を強く受け継ぎ、母には似ていない。
 目が大きくて綺麗な母。
 新しい父も、母と同じく二重で大きな目をしていた。
 ということで、どちらに似たとしても顔立ちは保障されていた弟は、小さな頃から可愛くて誰からも愛されて来た。 
 中3で168センチの背丈で止まった僕に比べ、弟は高校生になっても伸び続け、僕より10センチ以上高くなってしまった。
 そのルックスと背丈を生かし、アルバイトでモデルのような事もしている。
 そんな風だから弟はモテる。
 中学の頃から彼女には不自由しない生活を送って来た。
 正直うらやましいと思った事もあるが、香織の事だけは許せない。
 
 下川香織。
 僕が26歳の時に知り合った初めての彼女。
 今思えば僕がバカだった。
 何であの時、僕は彼女を家に招いたのだろう。
 心のどこかで、初めて出来た彼女を弟に自慢したいという気持ちがあった気がする。
 目がくりっとしていて、色白のかわいい女の子。
 そんな子を、弟が放っておくはずがなかったのだ。

 ある日僕が予定より早く帰宅した時、弟の部屋から女のあえぎ声が聞こえて来た。
 そういう事は前にもあったので、それだけなら何とも思わなかったのだが、弟が女の名前を呼ぶのを聞いて、気が付いたら僕は部屋のドアを開けていた。
 見つめる先にいたのは、弟の下で白い肌をさらけ出した香織だった。
 僕はそれでも彼女がごめんなさいと言って、僕の元に戻ってくれると信じていた。

 だけど現実は違っていた。
 彼女は悪びれた様子もなく、私、聡くんが好きなのと言い放った。
 僕は何も言えず、ドアを閉めた。
 あの時、怒鳴り散らして弟を殴り、彼女もお前なんかこっちから願い下げだと言えていたなら、少しはこの性格も変わっていたかもしれない。

 今の僕は、生きていてもしょうがないほど惨めな男だ。
 それから僕は実家を出て一人暮らしを始めた。
 と言っても実家から歩いて15分ほどの所だ。
 会社帰りに、あれこれ品を変えるように違う女と歩いている弟に遭遇する事もある。
 最近では、弟も僕が兄貴であるというだけで嫌悪感を覚えるようで、他人の振りをして通り過ぎる。  
 カッコいい自分に、こんな兄貴がいるのは汚点だというように。
 赤の他人よりも、冷たい空気を纏って。

 
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