僕は弟には勝てない

2

 その後、頻繁にうちにやって来るようになった弟。
 あいつに優しく接している彼女を見て、嫉妬心が芽生える事もあった。 
 彼女は、相手が年寄りだろうが子供だろうが、困っている人を見過ごす事が出来ない。
 人が好きと言おうか、誰かの為に生きているのを楽しんでいるかのようだった。

「聡くん、今日仕事は?」

 彼女は弟をそう呼んでいた。
 僕はあいつを名前で呼んだ事がない。

「美里ちゃんに会う為に、残業せずにすっ飛んで来た」

 お前、美里ちゃんだなんて軽々しく呼ぶんじゃない。
 ここで何か言うと、あいつは僕が嫉妬していると思っていい気になるに違いない。
 あえて何も言わず、ポーカーフェイスを装った。

「またまた」
「で、今日の料理は何?」
「今日は、将夫さんが大好きな焼きカレー」
「美里ちゃん、兄貴の事ばっかだな。たまには俺のリクエストにも答えてくれよ」
「聡くん、何が好きなの?」
「俺? えっとね、から揚げとか、コロッケとか、揚げ物全般」
「わかった。それはまた今度作ってあげるね」
「マジ? やった」
 
 あの出来事があったのは、それから数ヶ月経った頃だった。
 僕はその日残業で、1分でも早く仕事に切りをつけようと頑張っていた。
 彼女が食事を用意して待っていてくれているからだ。


 ピンポーン

「あら、聡くん」
「兄貴、残業?」
「うん。どうぞ、上がって」
「ああ」
「コーヒー入れる?」
「ああ」

 彼女は、二人分のコーヒーが入ったマグカップをトレーに乗せると、テーブルに運んだ。

「お待たせ。来るなら来るって言ってよ。今日は夕食、将夫さんの分しか作ってないわ」
「飯は食って来た」
「そう。良かった」
「なあ美里ちゃん」
「何?」
「兄貴のどこがいいの?」
「えっ?」
「あんなダメ男とじゃ、君が可哀想だよ」
「どうして?」
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