イケメンなんか大嫌い

「……おやすみ」

掠れたような声で呟くと、足早に立ち去ってしまった。
わたしは後ろ姿を目で追いながら、またしてもその場に佇んだまま動けなかった。


……もしかして、それを想定して日曜日を指定して来たのだろうか……。
思い至ると、静かな暗い玄関に響く鍵と踵の鳴らす音と共に、残念がっている自分に段々と気が付いて来て、胸が騒めく。

もっと触りたかった

……なんて、やっぱりわたしは変態かも知れない……。
がっくりと首部を垂れながら、真っ赤に染まった頬を左手で覆った。

『俺は男だから良いけど』

同時に再現された言葉に、他の女の子の姿が脳裏を掠めたような気がした。
女の子扱いして貰って、大事にしようとしてくれたのに、どうしてなんだろう。

1日一緒に過ごして端々にちらついた、わたしの知らない、過去の女の子。
何を今さら? 俊弥が遊んでいたことなんか、とうにわかっていたはずだ。
宙を彷徨っていた左手が、右腕をきゅっと掴んだ。

自分を取り巻く感情が、またも得体の知れないもののように思えて、何やら恐ろしく汗が流れた。

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