イケメンなんか大嫌い

「……あの……」
『はい?』

「……いえ、大丈夫です。すぐにお送りしますね」

このまま電話を切るのが惜しく、思わず呼び掛けてしまったが、当然ながら仕事の電話で何を話せるわけでもない。
受話器を置いた手元を視界に入れながら、眉を下げ溜息を漏らした。


定時で上がれたので、夕飯を数品作った。
鶏と大根の煮物、厚揚げとしめじの照り焼き、だし巻き玉子。

「あっ美味しい」

煮物の出来映えに、テーブルでひとり自画自賛しながら、思いがけず胸に浮かべていた。

……俊弥と食べたいなぁ。

心の動きを自覚し、はたと我に返り顔を抱えた。
わたし今、何を考えて……?
冷や汗を流しながら、箸を置き瞼を伏せる。
言えるわけないし、そんなこと。

気付けば頭の中は、俊弥とのことばかりで占拠されてしまっている。
その事実を把握すると心の内のもやが、ぶり返す。

ラグの上に放ったスマートフォンに横目で視線を流すが、画面は暗く沈黙を保ったままだ。
先週は水曜日に連絡があった。
期待している自分には、とうに気が付いている。

『1回やったからって別に……責任取れとも言わないし』

確かにそう言いのけた過去の自分を思い、眉間を寄せ唇を噛んだ。

──そんなのもう嫌だ。
離れがたくなるし、声が聴きたくなるし、本気で付き合うってこんなに──……

「くるしい……」

机に肘を着き顔を俯けて、髪をぐしゃっと握った。

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