マリンブルーに溺れて
1
 夏の夜は蒸していて生暖かい。昼の刺すような暑さとは真逆の暑さだ。それでもじっと座っているだけでほんのり汗ばんでくる。
 滑る汗を腕で拭いながら司は溜め息を吐いた。スマホを見ると時刻は12時半を回っている。遅いな、と思った。約束の時間は12時。30分以上過ぎている。
 眩しい夜だった。月明かりに照らされて光るマリンブルーの水面を、司はじっと眺めた。
 ここは東京都内の屋内プール。水面の色が透き通ったマリンブルーで今日のように月の美しい夜は神秘的に光る。
 司は11時50分頃からずっとここで待っているのだ。愛する彼を。
 後ろを振り返り、重たい扉を見詰める。そこに小さな影が落ちないか。じりじりと焦るような気持ちが押し寄せる。
 連絡をしようか。
 そう思ったとき、ぎい、と扉が開く音が聞こえた。ほぼ反射的に振り返る。そこには、嬉しそうにはにかむ司の恋人――零伊が立っていた。
「ごめん、遅くなった」
 どうして?待ってたのに
「ううん、俺も今来たところ」
「嘘だ」
「ほんとだよ」
 心の中で用意していた台詞は零伊に逢えた、という喜びで吹き飛んでしまっていた。ああ、この声、この笑顔。目の前にいる零伊の全てが愛しくてたまらない。今すぐにでも抱き締めたかった。
 零伊は司の隣に腰を下ろした。途中で買ってきたという缶ビールを呑みながら他愛もない話をする。零伊は酒が弱いのでアルコール0のカクテルを呑んでいる。
 零伊には何も聞かない。それがいつの間にか暗黙のルールとして定まっている。零伊は既婚者だからだ。
 パートナー法だとかいう法律のせいで、零伊には夫と呼べる存在が居る。若いのにかなりの実力者らしい。
「つかさ」
 どこか甘く、低い声に呼ばれる。そちらを向けば、ぷるぷるに潤った唇が自分のそれと重なりあう。果物のように甘酸っぱい香りが鼻腔を擽った。
 零伊の腕を引き寄せて、冷たい床に押し倒す。零伊の口から漏れる吐息混りの声に煽られて司の体温がぐんぐんと上がっていく。
「………逢いたかった」
 司の耳に届いたその言葉には切なさと愛しさがぎゅっと濃縮されているようで、途端に幸福の底へと落とされる。
 零伊の柔らかな唇と司の唇が重なりあう。それは酷く甘くてどこか苦しくなるようなキスだった。舌を絡めて激しくするでもなく、ただお互いの存在を確かめ合うように何度も重ねた。
「零伊君」
「ん?」
「泳がないの」
「司と遊んでたい」
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