【溺愛症候群】

2-9 擦れる、蒼白。




 バスが動きだしてから、20分もした頃だろうか。


「じゃあまずマイク回すから、簡単に自己紹介していけ」


 一番前の列を陣取る教授の指示の下、カラオケのような長いコードの付いたマイクが回される。

 ぐだぐだで収拾のつかない自己紹介はそれでもなんとか進み、俺は後ろから回ってきたマイクに適当に名前を告げて、香田さんに差し出した。


「はい」

「……りがとう」


 あ、がかすれて聞こえなかった。


 タオルハンカチを右手に握ったまま、小さな声で淡々と名前を述べる。

 最初と同じ、姓だけを。




< 74 / 152 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop