小倉ひとつ。
「お邪魔します……」

「はい、どうぞ」


いよいよ。いよいよだ。緊張しながら、開けてくれた扉に続いてリビングに顔を出す。


あっ、これ家事できる人のお部屋だ。整理整頓が行き届いている……!


というかお部屋広い! 綺麗! いやそうか。そうじゃないとお部屋に呼ばないよね。


マンションの一角にあるお部屋は、一人暮らしをするには充分広かった。


ふたりで住むとなると若干手狭だけれど、それだって若干で、ひとりなら悠々自適に過ごせそう。シンプルに整えられているところが瀧川さんっぽい。


内心うるさく騒いでいるのを悟られないように一生懸命顔を固定する私をよそに、瀧川さんも続いて中に入って、後ろ手で扉を閉めた。


「お荷物はこちらへどうぞ」

「ありがとうございます、失礼します」


実は結構重いので、遠慮なく示された椅子に置かせてもらう。


肩が痛くなるほどではないけれど、一応いろいろ持ってきたせいで、鞄の大きさの割にずしりと重い。声がけがありがたかった。


手洗いうがいとアルコール消毒を手早く済ませてから、ふたりで広いキッチンに行って材料を確認する。


アルコール消毒は、消毒液が隅に置いてあったのを目ざとく見つけてお借りした。


季節柄病気が怖い。あとこう、稲やさんでは絶対に消毒するから、慣れもあって、同じような手順を追っていった方が失敗しない気がする。多分。
< 182 / 420 >

この作品をシェア

pagetop