小倉ひとつ。
ぎゅっと指先が白くなるほどカウンターに備えつけてあるボールペンを握り、それでも、力に任せて乱暴に投げ出しはしないで、かたり、静かにペンスタンドに戻す。


冷えた空気にひゅっと息を飲みながら、私の目は瀧川さんの指先を追っていた。


……ああ。こういうところだ。


瀧川さんの、こういう、ふとした仕草がさりげない。


「…………」

「…………」


隠す間もなく思わず出たのだろう言葉の厳しい鋭さに、重く余韻が残る。


気まずさの中で、直後、言った瀧川さんの方がはっとして慌てたように眉を下げた。


どうしよう、と考えたのは確実で。

きっと、言い過ぎた、なんて思ってる。


……ああもう、瀧川さんはいい人すぎる。


私が馬鹿なことを言っただけなのだから、気にすることないのに。


だって、私はただの大学生だ。


ただの大学生が、顔見知りなだけなのに、お客さんである社会人の生活に口を出す方がおかしい。
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