小倉ひとつ。
「ご卒業おめでとうございます。平日なんですね」

「例年平日みたいです。瀧川さんは平日でした?」

「休日でした」


やっぱり学校によるのかな。会場の都合もあるのかもしれない。


「晴れ着は何かお召しになるんですか?」

「成人式でも着たのですが、祖母から譲ってもらったお着物に袴を合わせます」


成人式のものとは別のお着物も検討したのだけれど、せっかく素敵なお着物だからどんどん着ていこうと思って、成人式と同じお着物を着ることにした。


お茶のお稽古くらいしか着る機会がないのでは、あのお着物も譲ってくれた祖母も浮かばれない。


「お祖母さまはお茶の先生ですものね。お色はどのような?」

「うーん……茶色と朱色を混ぜて、ちょっと光沢を入れて素敵にしたみたいな……? 口ではうまく説明できないので、多分ご覧いただいた方が早いんですが」


語彙がなさすぎて、一欠片も素敵さが伝わらない説明しかできなかった。


ほんとに素敵なんです。なんて言えばいいか分からないけれど。
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