小倉ひとつ。
詰まった息が分からないように、慎重に返事をする。


「……はい」


瀧川さんはあくまでさらりと言った。


「相席になってしまいますが、よろしければどうぞ」

「いえ、でも」


だって、瀧川さんは。


「立花さん」

「……はい」

「相席させていただけませんか」


ぎゅう、と唇を噛んだ。明確な優しさだった。


瀧川さんは優しい。


ずっと立っているのは大変でしょうからとか、あいているんですからどうぞとか、弾みがつくようにいろいろ理由をつけてくれた優しい微笑みに根負けして、ありがとうございます、と近づいた。


「いいえ」


聞き慣れた返事に、ふいに蘇る。


『よろしいんですか』

『もちろんよろしいですよ』

『……ありがとうございます』

『いいえ』


同じだ。


同じ、私が望んだ、同じ関係だった。


そっと手を握って、笑顔を作った私に、瀧川さんはさらっと椅子を引いてくれた。


「わああすみません、ありがとうございます……!」


ひええ、相席させていただくうえに、お手数をおかけしてしまった……!!


「いいえ」


短い相槌も、にっこり笑った微笑みも、さりげない気遣いに満ちている。


瀧川さんの優しい「いいえ」が好きだった。


ねえ、瀧川さん。


あなたの優しさに子ども扱いが含まれているのなんて、知っています。

気遣いだって知っています。


それでも、ほんの少し、寂しい。


勝手に、寂しい。
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