小倉ひとつ。
ちょっとした仕草が素敵だとか、今日もお礼を言ってくれたとか、そういうささいなことで毎日少しずつ募っていく。


とめどなく、薄れもせず、どんどん大きくなっていく。


私の恋は憧れに似ている。それでも、この気持ちは確かに恋だった。


流れるように始まって、私が望んで続いている。


この恋は意思だ。私を支え続けてきた、明確な意思なのだ。


私も気配りに気づける人でありたい。

尊敬して好きになった理由を抱えて大事にしたい。

できるなら、この上品で尊敬している好きな人と、同じ方向を向いていたい。


ただの憧れ。きっかけはそれだけ。


でも、それだけだから、簡単だからこそ、付随するいろいろが膨らんで消えてくれない。


ふいにときめいて、ひとつ。


ふいにはっとして、ひとつ。


ひとつ、ふたつ。みっつ。ゆっくり積もる。


恋に落ちるときの音があったなら、私が恋に落ちる音は、きっとひどくささやかで、小さくて、雑踏に搔き消えるくらいの——日常ににじむくらいの、すとんって音だっただろう。
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