【完】ファントム・ナイト -白銀ト気高キ王-



「莉胡、」と。

思わずその名前を呼ぼうとしたときにはもう、莉胡は俺の手を振り払って、部屋を飛び出していった後で。



「……なにやってんだ、俺」



さっきまで莉胡が背をつけていたドアにもたれかかり、ずるずるとしゃがみ込む。

静まり返った部屋の中に落ちたつぶやきは、どことなく、懺悔に近かった。



……なにも、莉胡のことを責めるために、連れてきたわけじゃなかった。

十色さんと並んでも、今も尚違和感のなかった莉胡に、落ち着かなくなって。



──これ以上離れてしまわないように。

ただ、幼なじみを、とどめておきたかっただけなのに。



「……制御できてなさすぎでしょ、」



本当はこの感情が何なのか、ちゃんとわかってる。

認めたくないんじゃない。認められなかっただけだ。──認めればきっと、どこまでも求めてしまうから。




「千瀬」って名前を呼ぶその声に。当たり前のようにそばにいるその距離感に。──たとえ幼なじみという関係をはさんでいても俺を好きでいてくれる莉胡に、心地良さを感じてたのは。

……十色さんにも春にも揺らぐ莉胡を、黙って見ていられないのは。



「……莉胡」



だめ、だ。

認めればまた、気持ちを止められなくなって莉胡を困らせてしまう。──余裕なんて、ずっと、ない。



「、」



それでも、莉胡を傷つけてしまったのは事実だ。

とにかく謝ろうとスマホを取り出して、莉胡にメッセージを送ろうとしたとき、一瞬フリーズしたように動かなくなったと思えば、変わる画面には『片霧 由真』。



『そろそろ声聞きたいかなあって、掛けちゃった』



耳をくすぐる彼女とは違う甘い声に、自嘲気味に笑う。

それから「タイミングいいね」と返して、莉胡のことは頭から消した。──これ以上、彼女を傷つけて、しまわないように。



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