長い夜には手をとって


 だから普通の同棲みたいに、一緒の家に住んでいるって感覚にもなれた。別々だったご飯は出来るだけ一緒にとるようにしたし、家事の分担も再編しなおしたのだ。同居でなく同棲なら、お金を出してくれている伊織君のために、時間がある私は出来ることはする。何だかんだと私は結構上機嫌で二人分の家事をこなしていた。

 そして今日は、久しぶりの休みが重なった土曜日だったのだ。

 最初は伊織君の誕生日を祝ってどこかへ遠出しようか、と話していたのだけれど、あまりにいい天気で庭に光が溢れているのを見て、彼が言ったのだ。

 縁側でお昼にしよう。二人きりで、ゆっくりしたいって。


「うーん。やっと29歳か・・・」

 伊織君がぽつりとそう呟く。

 私はビールを飲みながら彼を見た。

「えらくしみじみと言うんだねー。29歳になると、何かあるの?」

 大して興味もなく聞いただけだったのだけど、伊織君は暫く前を向いたままで黙ってしまう。・・・あら?何かあるんだろうか、本当に。

 私がグラスを置いて体を彼に向けると、伊織君は前を向いたままで、ぼそっと言った。

「29じゃなくて・・・来年にね。だけど、そうか・・・確か・・・」

「ん?」

「・・・あ、それ、いけるかも」

「おーい、もしもーし?」

「そうだよな・・・それだったら・・・」

 一人で勝手に納得して頷く彼の腕を、私は人差し指でつんつんとつつく。会話になってないぞ。二人しかいないんだから、是非私にも参加させてくれ。来年なら何がどうなるの?


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