長い夜には手をとって


 電話を切って、床にぺたりと座り込んだままで、私は呆然と部屋の中を見回す。

 水谷綾は以前の会社で一緒に働いていた女の子だった。彼女の方が一つ年上で、同じ派遣社員であることから話すようになり、気があったのでどんどん仲良くなっていった。

 彼女には両親がもういないこと、私も実家に戻る予定はないこと、二人とも当時一人で住んでいた狭くて家具の配置が難しい部屋から脱出したかったこと、丁度タイミングよく、予算内で小さなタウンハウスが見付かったこと、などが重なって、二人は一緒に住むようになったのだ。それが3年前の夏のこと。

 12畳のLDKと水回りが一階で、急な階段を上がった二階に6畳の和室が二つ。二人には丁度よくて、今は違う仕事をしている都合上時間はあまりあわなかったけれど、楽しく暮らしていたのだ。

 なのに。

 なのに~!

 金融系に派遣で行くことが多い私が不信感から銀行にはお金を預けずに所謂箪笥貯金をしていることは、綾は知っていた。少ない給料の中から、それでも毎月1、2万は貯金していたこと。10万になればくるりと丸めて輪ゴムでくくり、キャンパス地のバックに突っ込んでいく。それを一人暮らしをしていた頃から毎月やっていたのだ。お酒を飲んだ夜や将来のこと、抱いている夢なんかを話しあう時などに、口にしたことがあった。

 綾はいつも、凪はえらいねえ!って目を大きく見開いて、ニコニコしていた。あたしも真似しなきゃねって。そうよね、銀行に預けたら自分のお金を動かすだけなのに手数料も取られるもんねえ!それってバカらしいよね、って。


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