甘くて苦い恋をした

「それでは、よろしくお願いします」

打ち合せを終えて、車に乗り込んだ時だった。
悠真が携帯を見ながら、驚いたように目を見開いた。

「ごめん 沙耶… ちょっと待ってて…」

そう言うと、車の外に出て誰かに電話をかけ始めた。

いつもだったら、車の中でかけるのに…
何だか凄く気になった。

「誰?」

電話を終えた悠真にそう尋ねると、悠真は一瞬目を泳がせた。

「あー 昔の知り合い」
  
悠真はそれだけ答えると、これ以上触れてくれるなオーラを放ちながら、そのまま車を発進させた。

そして、会社に着いてからの悠真は更に怪しかった。

「高本… 俺、ちょっと受付に寄っていくから、先に戻っててくれる?」

そう言って、地下から乗ってきたエレベーターを1階で降りて行ったのだ。

これは絶対に何かある!
そう直感した私は、すぐに次の階のボタンを押してエレベーターを降りた。

そして、階段を使って、急いで1階へと下りたのだけど…

エントランスで私が目撃したのは、なんと例の写真の彼女との密会現場だった。

悠真は彼女から何かを受け取ると、照れたように笑っていた。

何だか見ているのが辛くなって、私はその場から立ち去った。

一体、彼女とはどういう関係なのだろう…
胸のざわつきが止まらなかった。


15分くらいして、悠真が営業室へと戻ってきた。

「加瀬さん、何の用事だったんですか?」

思い切って尋ねると、悠真はこう答えた。
 
「ああ、別に大した用事じゃないよ。外出中に誰か尋ねてこなかったか、受付に確認しに行っただけだから」

悠真は笑顔で嘘をついた。

「そうですか」

もう、それ以上訊く気にはなれなくて、私は黙ってパソコンに向かった。


**

そして、私は今…
悠真からプレゼントされた服を着て、サクラガーデンのVIP席にいる。

個室になっているこのVIP席からは、ライトアップされたガーデンチャペルがよく見える。
 
あんなことがなければ、最高の夜になっていた筈なのに…
豪華な料理も全然喉を通らない…

「沙耶… やっぱり、今日は具合でも悪いのか?」

向かいの席から悠真が心配そうに声をかけてきた。
私は黙って首を振った。

「じゃあ、どうしたの? 何かあったんだろ?」

悠真が必死に問いかけてくる。
私はとうとう堪えきれなくなって涙を流した。

「え! 沙耶!? 何で泣くの?」

狼狽える悠真に、私は顔を上げてこう答えた。

「悠真が嘘つくからだよ…」と…。











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