イジワル社長は溺愛旦那様!?

湊の寝室の前に立ち、ドアをノックする。


「――はい」


内側から湊の返事がした。


(失礼します……)


ドアを開けると、ベッドの縁に腰を下ろした湊の姿が目に入った。

彼は膝の上においたタブレットを眺めていた。だが夕妃がドアを開けるとそれをヘッドボードの上に置いて、にっこりと微笑んだ。


「ここに来てください」


ここ、と言って手で叩いたのは彼の隣だ。

夕妃はドキドキしながら広い寝室の奥に向かう。

寝室は大きなベッドと、間接照明だけで、他に何もない静かな部屋だった。


(手と足が一緒に出そう……)


ただ彼のもとに歩いていくだけなのに、ギクシャクしてしまう。

ゆっくりと、湊の右隣に座る。

心臓がドキドキと跳ねて苦しい。
自分の心臓の音が湊に聞こえてしまうかもしれないと不安になる。

顔を上げられないまま、膝の上に置いた自分の手を見つめるしかない。

すると、湊が顔を覗き込んでささやいた。


「緊張していますね」


優しい声だ。


(してます、すごく……)


夕妃はうつむいたまま、うなずいた。


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